日本における印鑑・はんこの歴史-はんこ豆事典
現存する最古の印
日本ではいつ頃からハンコが使われるようになったかということはそれを裏付ける確かな資料がないため定かではありませんが、日本に現存する最古の印は現在、国宝に指定されている『漢委奴国王』の金印で、天明4年(1784年)筑前国糟屋郡志賀島(現在の福岡県福岡市東区志賀島)で発見されたものです。
後漢の光武帝が中元2年(57年)に日本の『倭奴国』に金印を授けたという記録が『後漢書』にありますが、まさにその印であるといわれています。
しかし金印は中国・漢朝廷から贈られた印で、日本製の現存する最古の印は『大連之印』です。大連は第十一代垂仁天皇の頃に初まり、第三十五代皇極天皇の即位まで続いた役職で『大連之印』はその官印です。
印章制度の始まり
中国の官印(役所で使用される印)の制度が日本で整備されたのは奈良時代で、大宝元年(701年)律令制が整ってからだといわれています。日本で初めて種々の公印(公務で使用する印章)が製作され、下記の4種類(内印・外印・諸司印・諸国印)に大別されます。
その他のいろいろな印
私印の始まり
私印(当時は家印をさし、個人の印章)は奈良時代後期に発生し、当時はまだ原則的に私印の製造、使用は禁止されていましたが、公印に準ずる印として『軍団印』『郡印』『寺社印』などがありました。
- 軍団…各国に複数配置され国の守備のため駐屯した軍団。それぞれの地方の出身者で構成されている。
- 郡…律令制での行政区画の一つ。国の下に位し、郡司が管轄した。この下に郷・里がある。現在でもその名が残る地方がある。
官印制に代わる花押の始まり
平安時代中期から末期のかけて、官印がほとんど使われない時代があり、代わって花押(かおう)が広く用いられるようになります。花押は公家、領主、武将などが用いたもので、一般庶民はなお拇印、爪印などを文書に押していました。
僧侶の印
鎌倉時代になると宋との貿易で種々の文化が導入され、僧侶などの私印が作られます。これらは室町・桃山時代にかけて盛んになりました。
戦国武将の印
時も戦国時代に移り、戦国武将は花押と併用して私印を盛んに用いるようになりました。印文にもそれぞれ趣向をこらし、権力と威厳を表現しようとしました。織田信長の『天下布武』の印、上杉謙信の『地帝妙』、豊臣秀吉の『豊臣』の印、徳川家康の『福徳』の印などは有名です。
キリシタン大名の印
戦国時代に現在の九州の大名が用いたローマ字印です。豊後国を本拠に治めた大友氏21代当主『大友宗麟』、正室が細川ガラシャで有名な豊前国小倉藩の初代藩主『細川忠興』、NHK大河ドラマ『軍師 官兵衛』で知られる筑前国福岡藩の藩祖『黒田如水』。キリシタン大名であった大友宗麟と黒田如水は印文に洗礼名である『フランシスコ』と『シメオン』を用いています。
徳川歴代将軍の印
慶長8年以降、260年あまりに渡って江戸幕府の執政を行った徳川歴代将軍の印です。二重の枠に篆書体が特徴です。
現在の印鑑制度
以来時代の変遷とともに、一般庶民の生活にも深く浸透していったハンコは、明治6年(1873年)10月1日、太政官布告で署名のほかに実印を捺印する制度が定められました。ハンコが正式に市民権を得た日を記念して、10月1日が『印章の日』となりました。
書体の歴史
篆書体
篆書は中国初の統一国家と言われる秦の時代(紀元前221~206年)、秦の始皇帝の命により、それまでにつくられた漢字をまとめて正式に統一書体として採用された文字です。正確には『小篆 』と言い、まだ紙が発明される以前に、主に青銅や石鼓に刻まれていた書体です。日本の紙幣に捺されている印影がそれで、日本銀行の『 総裁之印』と印されています。非常に歴史と由緒ある書体です。
隷書体
隷書は前漢の時代に篆書(小篆)の繁雑さを省き、一般人にも解しやすいように、より実用的にと簡略化され生まれた書体です。紙が発明される前に木簡や竹簡に書かれた実用的な書体で、石に刻していた篆書から、木簡・竹簡に適するように早書きできる隷書へ移り変わっていきます。 文字の横画は水平で、横画を右に”はらう”のが特徴です。
草書体
草書は隷書を簡略化した『章草』をさらに略した書体で、隷書の早書きから生まれました。はじめは木簡や竹簡に書かれていましたが、紙の発明とともに草書体が発達しました。簡略化により横画は隷書の水平から右上がりになり、文字のよっては判別しにくい文字もあります。日本の平仮名は平安時代に草書体をベースに生まれました。
行書体
行書は後漢に生まれ、楷書と草書の中間に位置する書体です。隷書や楷書よりも速記に優れ、草書よりも判別しやすいということから生まれた書体です。製紙の発達で急速に広まりました。
楷書体
隋・唐の時代になると楷書が広く使われるようになりました。隷書をさらに書写に合うように改変する中で草書が生まれ、その対置である正書として楷書が生まれた。
古印体
古印体は大和古印の伝統を受けつぎながら、隷書を元に丸みを加えた書体です。大和古印は奈良・平安時代に日本で作られ使用された鋳銅製の印章で日本独自のものです。官印として公文書などに使用されました。鋳造によって生じた線の切れ目や墨溜まりが特徴です。
印相体
篆書を基礎にして意匠化したもの。印象が柔らかく、今最も多く使われている優れた書体です。篆書を印章の枠いっぱいに肉太く字入れした印章用の書体です。